紡香師(ほうこうし)陸拾壱~異臭

2
8

九月二週。店の電話が鳴った。
「はい、紡香堂です」

「はい。……承知しました」
受話器を置く手を、香月さんがぼんやり見る。
「出掛けてきます」
ゆっくり瞬く。布団に寝たきり、頷くのも難しくなってた。
「土産にリンゴ。香月さん好きでしょ」
首を振った。唇が動いたけど、音になってなかった。



「来ねぇかと思ったよ、疫病神」
「お久しぶりっす、香澄さん」
男姿の香澄さんは、想像の遥か上だった。ハンサムで才能豊かで努力家。姉弟でなければ、この人こそ香月さんの傍にいただろう。
「前置きはいい、今すぐ香月から手を引け」
外へ呼び出した。状況が掴めてないわけない。
ブレンドの件、香澄さんには報せず進めた。知れば妨害に走る。体身香の騒ぎ以降、香水の注文は配達で、香澄さんが店に乗り込む事もなかった。とは言え、最後まで隠し通そうなんて、さすがに甘かったか。
「出来ません」
ぎり、と香澄さんが歯を剥いた。
ファンタジー
公開:20/02/04 16:34
更新:20/02/23 17:39

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容