つりあわないラーメン店⑤

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 吉澤君の初来店から1年が経過した頃、大将は大きな決断をした。
 小麦価格高騰を受け、店の存続の為、チャーシュー麺は700→790円に値上げした。内壁に告知の貼紙を掲示したが、この店で唯一、内気な吉澤君がいつも座る入口に1番近いカウンター席からは排気口が邪魔して見えなかった。
 それから2年後、彼は大将と客の会話からその事実を知り2年間も700円のまま払い続けてきた事に気付く。返済したいが彼は知っていた。美味いからと釣りを取らない客に怒って断っている大将のこだわりと信念を。そして大将が愛するこの店や、通ってくれる客を想いギリギリの価格設定にしていることも。正直に差額の支払いを願い出てもきっと大将は受け取らない。
 吉澤君は考えた。
 そもそも自分がこの差額に気付かれなかったのはカウンター席のカゴに自分でお金を入れて、そこから釣りも自分で取る支払い方法によるもの。
 それをうまく利用すれば。
ミステリー・推理
公開:20/02/02 22:00
更新:20/05/23 10:28
立中森一(たてなかしんいち) 推理物シリーズ

NORIHISA( 碧の星 )

   創作活動はこちらのショートショートガーデンが初めてです。令和元年12月31日から投稿開始しております。
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