紡香師(ほうこうし)伍拾捌~初花香

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ブレンドが始まってしばらく、香月さんに目立った変化はなかった。
「すぐに出るもんでもねぇよ。前ん時は落とさず丸五日。過労と重なって、どの程度体調に影響してたか不明だし。肩の力抜いてこうぜ」
一日三時間。朝に香月さんをラボへ届け、午前の仕事。昼食後、死臭浴と洗浄を終えた香月さんを迎えに行き、午後は通常営業。香月さんも出来る仕事はするし、生活のリズムが崩れる事もない。
「そうっすね……毎回匂い薄くなんのは、シャワーっすね。夜には戻るし」
「そこは報告すんな色ボケ犬。戻らなくなってからでいいんだよ!」
いつもの会話。いつもの表情。
「はいはい。ところでその着物、すっげぇ似合う」
「……お、おぅ」
香月さんは女物を着て、帯が苦しいとか、化粧が気持ち悪いとかぼやく。初花染めの桜色の小袖も、淡い口紅も眩しいくらい綺麗だ。
いつもから少し踏み込んだ、幸せな時間。――俺にとって、耐え難い程の死臭を除けば。
ファンタジー
公開:20/02/04 00:04
初花(はつはな): 初めて咲く花 妙齢の少女 紅花の初花で染めた衣を、 初花染めと呼びます。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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