目玉の無い少女

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ぐるぐると渦巻く世界。
空も海も渦巻いている。
医者が言う。
「あなたの目玉は無くなってしまったので、その見えているものは脳の作り出したイメージです」
視界以外は他の生き物の存在を教えてくる。
赤ん坊の頃に突然目玉が無くなって早10年。
無い目玉で見る世界には人一人居ない。


「これ、あなたが描いたの?」
恐ろしく写実的な絵を前に、頷く少女に疑問を抱く。
「何を描いたの?」
「はなとちょうちょ」
目玉の無い少女の手元の絵は、普通の家が描かれており、蝶も花も無かった。
それは、私の家にしか見えなかった。


授業中は録音する事にしている。
目玉の無い生徒に英語の教科書を持たせると、指で触る。
読み聞かせようとした刹那、彼女が日本語でも英語でも無い言葉を発した。
流暢な不可思議な言葉に、慌てて止める。
それは、古代ペルシャ語に似ていた。
録音していたデータは何か怖くて聞けない。
公開:20/02/03 17:05
更新:20/02/04 22:25

右左上左右右

アイコンは壬生野サルさんに描いて頂きました。ありがたや、ありがたや。

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