紡香師（ほうこうし）肆拾参～デオドラント

「さて、保健のレクチャーになるけど、排卵はいつ起きるか知ってるか？」
「中学で習った。生理の前っす」
ゲンコツが落ちた。
「ざっくり過ぎんだろ！もっと詳しく」
「うーんと、前の日？」
二発目！
「一緒だボケ！しかも違う！……排卵は月経前、十四プラマイ二日。多少個人差はあれほぼ一定だ。今日から二週間前、何か作用する事象があった。三十二年で初の成果だ」
そうだ。香月さんは紡香師になる前、研究所に隔離されてた。拳に力が入る。
「ホルモン療法、外科手術、お前に渡した体身香含む、各種薬物・化学療法に放射線、移植。怪しげな民間療法まで。これ以上は胸糞悪くなるだろうから言わねぇ。とにかく万策尽きた」
この小さな身体に、心に、どれだけの見える傷見えない傷があるんだろう。この人を助けてやりたい。何とかしてやりたい――。
「冬休み前……蘭奢待の後っすね。香月さんが……」
温かい部屋なのに、背中が冷たくなった。