あくびを買う男

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青年は「眠れぬ」ということをひどく気に病んでいたのでした。それはもう自ら命を絶ってしまう程に。
青年はこれで永遠の眠りにつけると一時はひどく安堵したのです。
けれど死と眠りとはやはりどこか根本的に違うようなのです。それで彼はやっぱりもう一度こんこんとした眠りについてみたかった、などという思いに駆られ、もう百年もの間、眠りを求め彷徨い続けていたのでした。
ある時彼は、いつもの散歩の途中、『あくび屋』なるものを見つけ思わず駆け寄りました。
「あの、あくびを売ってるの?」
「そうだけど」
「ひとつくれない?」
「いいけど」
「いくらかな?」
「五万円よ」
店主は冗談っぽく笑いましたが、彼は大真面目でした。百年越しの眠りにつけるのなら五万など安いものです。
夜、彼は大いなる期待とともに布団に横になりました。すると何やら強烈な眠気とともに沼の底に引き摺り込まれるような奇妙な感覚に陥ったのでした。
ファンタジー
公開:20/02/02 16:10
更新:20/02/02 16:25

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