あがなう

　手は届くのに心は遠かった。
　間男に寝取られた妻だった女は「心変わりしたんだから仕方がない」とのうのうとのたまった。明らかな瑕疵を開き直ってしまえる生き物が恐ろしく、言われるがまま離婚届に判を押した。
　私は一人になった。弱りきっていたとはいえ、営業用の笑顔に惚れてしまったのは単純すぎると我ながら思う。
　少しでも好感を抱いてもらおうと身なりに金をかけると、君はお似合いですねと称えてくれた。ところが、鏡に映るのは小金持ちでしかない成金とでも揶揄したくなるしょぼくれた男だった。
　いいんだ。ベッドに入ってしまえば。裸になってしまえばそこには、本当の私がいるはずだから。
　移ろうものだと知っているのに。盲信にも近い願いだとわかっているのに。殊更に激しく君を抱いた。心まで手を伸ばすかのように。愛を掴み取れるように。ＡＴＭからおろしてきたばかりの万札を握らせるくせに。変わらないものが欲しかった。