団地のエレベーターがこわいわけ

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 ぼくは団地のエレベーターがこわい。
 だから階段を使う。階段は半分外なので、そこから見える空はとても明るい。でもなぜだか階段は真っ暗で、お姉さんが「踏み外さないようにね」って、いつだって注意してくれる。
 お姉さんは包帯ぐるぐるで、松葉杖で、踊り場に立っている。いつも、裾がギザギザになった花柄のワンピース。髪の毛はぼさぼさで枯葉がついていたりもするけど、優しい目をしてるんだ。
 このお姉さんのことを話すと、お母さんは怒る。お父さんは笑う。ぼくがお父さんとお母さんの手を引っ張って踊り場に連れて行こうとしても、ギュッと踏ん張って、来てくれない。そして、泣いているぼくにケーキを買ってきてくれて、「エレベーターがあるのだからそれを使いなさい」っていう。
 だけどぼくは嫌なんだ。そこにも同じお姉さんがいるのだけど、床から半分しか顔を出していないから。
 だからぼくは団地のエレベーターがこわいんだ。
その他
公開:20/02/02 09:40
こわいわけ

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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