雪書のハガキ

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雪が降り積もった冬の夜、郵便受けを覗くと一通のハガキが投函されていた。
私あてのハガキで、差出人が先日老衰で亡くなった祖父だったので驚いた。
住所が『黄泉国』とあり、聞いたこともない地名が続けて記されていた。
ハガキの裏面には、次のような文章が綴られていた。

『久しぶり。元気にしているか。突然の便りに驚いたことだろう。雪明かりで文字が浮き上がる雪書で送ったんだ。蛍雪の功という故事を知っているだろ。大変苦労して学問に励み、それが成功して報われるという意味だ。お前も志望校に合格するため、正月返上で受験勉強をしてきたから、その努力は必ず報われる。草葉の陰から応援しているぞ。』

書道家だった祖父らしく達筆な文字で書かれていた。毛筆には、篆書、隷書、草書、行書、楷書の五つが知られているが、祖父は、雪書という特殊な書体を使ったようだ。
翌朝、真っ白なハガキをお守り代わりに入学試験会場へと向かった。
青春
公開:20/02/01 00:00
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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