紡香師(ほうこうし)参拾玖~薫衣

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こんな状況と体勢で、寝れた自分に呆れる。
喚くだけ喚き散らして、ぼかすか叩いて暴れて、疲れ果てて沈没。俺も意地で離さないまま、香月さんの寝息と心音と、体温を子守唄に就寝。……ガキの喧嘩か、まったく。
夢うつつ、香月さんが這い出す気配を感じた。足音は普通そうだったし、俺も今は、正面切って顔合わす度胸ない。
腕の輪を縮めるのが勿体なくて、布団の匂いだけ抱いて。

これで万一成就したら?――考えるだけ馬鹿。
身体は十歳なんだ。どんだけ傍にいたって、もし結婚出来たって、手の届く場所で生殺しの拷問が延々続く。耐え切れる自信が俺にはねぇ。

今まで通りでいよう。多分香澄さんも同じ壁にぶち当たって――それ以前に姉弟だが――諦めた。俺も介助犬のイヌスケのまま、その方が俺にも良い。

何か倒れる音。
布団蹴って飛び出す。キッチンの方だ。
戸を開ける、床に香月さん――動かない。

俺の心臓も止まった気がした。
ファンタジー
公開:20/01/31 23:11
薫衣(くぬえ・くのえ): 香を焚きしめ、香らせた衣の意。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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