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『しねぇっつったらしねぇんだよ、食ったら帰れ』
香月さんを怒らせた。
仕事ではさんざん怒らせた。けど、香月さん自身の事で怒られた事はなかった。
浮かれて、多分酒にも酔って口が滑った。友達でも家族でもなく、香月さんは雇い主。俺が意見すべきじゃなかった。
結局俺は、香月さんを何も知らない。入院した病室のプレートは白紙だった。香月さんに関する具体情報がない。香月さんが教えてくれた事も、全部本当か判らない――。
「帰れっつったろ」
呆れた調子の声で、目が覚めた。
「ワイン飲んだから無理っす」
「もう夜中だ。いい加減帰れ」
背中に小さい上着。正面に水の匂い。
「風呂入ったんすね。匂い薄い」
「本気で犬か。普通体臭とか判別付かねぇぞ」
「違います。いつもつけてるやつ、何の香りっすか?」
「寝ぼけてんのか。オレが香料使うわけねぇだろ」
言われた事が飲み込めなかった。
現に今、香月さんの匂いがするのに。
香月さんを怒らせた。
仕事ではさんざん怒らせた。けど、香月さん自身の事で怒られた事はなかった。
浮かれて、多分酒にも酔って口が滑った。友達でも家族でもなく、香月さんは雇い主。俺が意見すべきじゃなかった。
結局俺は、香月さんを何も知らない。入院した病室のプレートは白紙だった。香月さんに関する具体情報がない。香月さんが教えてくれた事も、全部本当か判らない――。
「帰れっつったろ」
呆れた調子の声で、目が覚めた。
「ワイン飲んだから無理っす」
「もう夜中だ。いい加減帰れ」
背中に小さい上着。正面に水の匂い。
「風呂入ったんすね。匂い薄い」
「本気で犬か。普通体臭とか判別付かねぇぞ」
「違います。いつもつけてるやつ、何の香りっすか?」
「寝ぼけてんのか。オレが香料使うわけねぇだろ」
言われた事が飲み込めなかった。
現に今、香月さんの匂いがするのに。
ファンタジー
公開:20/01/30 15:57
更新:20/02/02 18:04
更新:20/02/02 18:04
残香(ざんこう):
残り香の文語表現。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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