紡香師（ほうこうし）弐拾参～ローズマリー

出勤したら、テーブルに鉢植えがあった。
お香や香水の原料なら、店にも植物園にも置いてるが、根の付いたのは珍しい。
細い葉を軽くこする。薄青い小花がちらちら揺れた。
「ローズマリーだ」
「へぇ。犬でも知ってんのか」
「だから犬じゃねぇって。実家にあって、匂い一緒だから」
「やっぱ犬だろお前。ローズマリーは、古代から利用されてきたハーブだ。消臭、抗菌、抗酸化作用に血行促進。香水や消臭剤、薬酒、料理にも使う」
「確かに、レストランで見たかも。けど、そんな変わるもん？」
「舌より鼻で食うんだよ人間は。五感における味覚の割合、１％に過ぎねぇんだぜ」
「知らなかった……。ってか、香月さん料理する人？」
「市販のは味も匂いもきついし、食品添加物とか、商売に影響するから」
つくづくプロだな、この人。
「俺も外食苦手。今度食わして下さい」
「彼女に頼め」
「……いたら今日来ねぇっす」
クリスマスイブだった。