紡香師(ほうこうし)弐拾壱~塗香

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「死臭が本体の自己破壊を促し、死に近付けるとしたら。その臭いを絶てば、多少遠ざける事が可能なはずだ」
「前の消臭剤みたいに?けど、それなら病院でやれそう」
「絶つだけじゃ駄目だ。死臭のレシピを完全に反転する、新しい匂い。データ上は調合出来たけど、仮説の賭けだ、オレも自信ねぇ」
香月さんも人間だ。失敗もすれば疑問も持つ。恐怖だって感じる。当然なのに、俺はそれも忘れ掛けてた。

「呼吸器を外して下さい」
息子さんが頷き、給気マスクを外す。アラートは響かない。担当医も承知で待機してる。場合によっては殺人罪に問われる。それを説き伏せるだけの実績が、紡香師の香月にはある。こんな状況なのに、誇らしい気持ちだった。
「塗香(ずこう)します」
身体に塗るお香。心身を清め邪気を払う。煙を焚くより、強力で即効性があるらしい。
額。鼻。口。耳。喉。儀式にも、化粧にも見えた。

「……」
皴だらけの口が、動いた。
ファンタジー
公開:20/01/29 23:11
塗香(ずこう): 極小の粉末に挽いた、塗るお香。 密教の儀式・葬儀でも使用。 香水の様に使う事も出来ます。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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