栞を挟んだままで

8
9

机の奥から黄ばんだ冊子が出てきた。あ、カリカリ君の小説だ。懐かしいな。中学生の自分が手招きしている。

カリカリというのは鉛筆の音。休み時間のたび、教室の端っこから聞こえてきたんだ。

彼の書く物語は完全なフィクションではなかった。クラスメイトや先生のデフォルメが心地よく、新作は順番を待たねば読めぬほどの人気振りだった。

「タカシ君も出してやろうか」

そんな言葉を思い出す。嬉しさを隠して、つっけんどんに断った気もするが…。無理に記憶を探ると、えも言われぬ恥ずかしさも佇んでいる。

もしかして変な風に書かれたのかもな。冊子を手にとってページをめくるが、一向に僕は登場しない。おかしいなと思っていると、最後の最後でようやく出てきた。

…という結末は、完全にタカシの予想どおりだった。

手書きした、自分の拙い文字。冊子をゆっくり閉じると、あの日のタカシがホッとした顔で冊子のシミに逃げてった。
その他
公開:20/01/30 23:22

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容