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 目の前にあるのは、ただひたすら時を刻み続ける壁掛け時計。その文字盤の長短の針は、私を焦らせる。このまま無駄に時を過ごしてたまるか、何かしなくてはと。
 しかし何をすればいいのかわからない。自分がしたいことが見つからず、動くことすらできない。ただ、時計の針の音だけが、部屋中に響き渡る。何もしないまま、時が過ぎる。
 気が付くと、俺はペンを握っていた。ショッピングモールで貰ってきたチラシの裏に、頭に思い浮かんだ絵を、文字を、思いつくまま書きなぐった。その紙が真っ黒になった頃には、俺の中にあった焦りはいつのまにか消え去っていた。
 刻もう。生きている証を、時を過ごしている証を、その目の前の紙に。その時の感情を、その紙が黒くなるまで。
 
その他
公開:20/01/30 20:12

秋村ふみ( 青森県 )

300文字という限られた空間で、自分なりのモノガタリを描かせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

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