紡香師（ほうこうし）拾漆～沈香

「不幸を招く？そんな危険なんすか！」
店中シーンとした。
「あくまで風説です。それに今回は、実物でなく、再現せよという依頼では？」
「はい、多分。……すいません」
俺の馬鹿。うろたえて情けねぇ。
「私こそ意地悪でした。乾さんは純粋ですね」
微笑む顔が、懐かしい様な、照れ臭い様な感じ。
「やっぱ女の人だな。お袋思い出した」
瞬き一つ、笑顔が曇った気がした。
「あ、また俺失礼な事。まだ全然お若いのに」
「そうですね。蘭奢待に比べれば、人の命は幼くて儚い」
乾いた声。泣き疲れて涙も枯れたみたいな。
「月峰さんの研究って……？」
「捜し物です。ずっとずっと捜して。ある意味、香月さんと近いかも知れない」
「探し物？香月さんが？」
「詳しくはご本人に。…あぁそうだ」
掌に、香袋。
「沈香（じんこう）です。伽羅にも劣りますが、気分だけ」
「……良い匂いっすね。でも、」
言い掛けて、解らなくなってやめた。