紡香師（ほうこうし）拾捌～黄熟香

「なーに、二人で盛り上がってんだ？」
首筋に冷たい感触！
「ひっ！」
「おいイヌスケぇ……。てめぇ期末で忙しいんじゃねぇのか」
「か、香月さん」
寒い。手も冷たいが、声は冷凍光線。さすが三十二歳……。
「受付の娘が教えてくれたぞ。オレ一人で働かして、良い度胸だなコラぁ……！」
「違います、サボったわけじゃ…あ、月峰さんヘルプ！」
しれっとお茶を含む月峰さん。……スルーされた。
「お疲れ様です、紡香堂さん。依頼は完了ですか」
くわっと目を剥く香月さん。そうだ秘密厳守……後で殺されるかも、俺。
「……終わったよ。データだけでコピー造れとか、お内裏様は上から目線だよな」
「黄熟香は門外不出ですから」
「オウジュクコウ？ランタンじゃなくて？」
「登録名と通称だよ。もうイヌスケ黙れ」
香月さんが目をこする。気の張る仕事で疲れきった顔。
「帰る。車」
ぼすっと背中におぶさった頭は、いつもの匂いがした。