一羽の俺

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「大事な話があるんだ」
いつもふざけてばかりいる飼い犬が真剣な顔で言うものだから、私はフライドナマコを食べる手を止めた。
窓の向こうに一羽のうさぎがいる。真綿のように白くチャーミングなうさぎが会釈をしたものだから、私はどぎまぎして、かぶっていたシャンプーハットを脱いだ。
そういえば最近この犬は、ことあるごとに他の動物の話を聞きたがっていた。キリンのこと、アリクイのこと、コアラのこと。私がうさぎの飼育員をしていることで、私の体からは毎日甘いにおいがするらしい。うさぎの写真を見せて、その数え方が一羽二羽だと教えたときなどは、興奮して一晩中庭に穴を掘っていた。
恋に恋しただけだと思っていたゴンチキ丸が、いつのまにか本当の恋におちていたなんて。
「一緒に暮らすことにしたから」
「俺はどうなるんだよ」
ゴンチキ丸はそのまま家を出て帰らなかった。
淋しくて衰弱した私を、飼い主の妻がそっと撫でてくれた。
公開:20/01/29 15:31

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