自動改札の男

　「っお～っふっう！」
　けたたましいチャイム音に、吐息混じりの声が混じる。駅員は苦虫を噛み潰したような顔で、自動改札のフラッパーに尻を突き出している男を引きずり出した。
　だぼだぼの背広を着た４０代半ばの、少々髪がさびしくなったぽっちゃり体型の小男だ。
「通勤定期があるんだからそれできちんと通ってくださいよ」
　この男。今日は、色あせたアイドルテレカで、わざとフラッパーを閉じさせた。通勤時間帯に毎日これをやるので、同じ時間にこの駅を利用する客は、この男が改札に入ると、まるで儀式を待つかのようにぴたりと歩みを止める。
　異物を通してからフラッパーが閉じるまでに直前まで進んで体を反転させ、ズボンとパンツを下ろして尻をビタンと打たせて「っお～っふっう！」。
　だが、防犯カメラにも周囲の人にも決して肌は晒さない。
　この駅は最寄り駅ではないが、スプリングの加減が好みなのだと、男は供述したという。