ある暖冬に

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「めでたい日が暖かい日で良かったね」
「でもやっぱり少し風が寒くない?」
「しかしあの二人が」
「いつも争ってるようで本当は仲が良かったんだな」
「痴話喧嘩に付き合わされた身にもなってみろ、お陰で風邪引かされたんだぞ」
「今となってはいい思い出じゃないか」
集まった人々は思い出を語り、笑い合う。
やがて目の前に、見上げるような“それ”がやって来ると、歓声が上がった。
「一生に二度は無い瞬間だ!」
「記念写真を撮ろう!」
「生モノだ!形が変わらないうちに残しておこう!」
青年も少女も老人も皆写真機を構え、シャッターを切る。
各々の手によって被写体が切り取られ、保存される。
「皆様、お写真はお撮りになりましたか?」
落ち着いた男性の声でアナウンスが流れる。
「それでは、二人の門出を祝って、入刀!」
響く歓声とシャッター音。

白くて大きな雲が、二つに割れた。
今日は、北風と太陽の結婚式。
ファンタジー
公開:20/01/29 11:35
更新:20/01/29 12:41

TAMAUSA825( 東京と神奈川 )

登場することが趣味です。

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