無辜の民

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暗闇と静寂の中で微睡んでいた。自分の心音と温かな安心感。好みを丸めてうとうとと、温まりの心地の良さに身を委ねる。
このままずっとこうしていたい。寝起きのような判然としない意識のまま、夢の中を彷徨う。
いつからこうだった?腕が痛む。動かせない両足が、違和感を訴える。
違う、これは優しさじゃない。布で縛られた、我らの自由。
目が、耳が、口が塞がれ、誰かも知らず横たわる我らの姿。
何も知らず知らされず、抵抗も忘れて蹲る我らの心。
起きろ、光はすぐそこだ。微睡に囚われた体を奮い、世界を望む我らの意志。
誰も傷つけず、縛らない。故に囚われた我らの思想。
日々に幸せを求め、善良を励む我らの平和。
奪われたのは、目と耳と口。
我らは無辜の民。ただ懸命にいきたいだけだ。
埋葬のように我らを縛る誰かの思惑。
生ける屍ではないのだと、私は力の限り、腕を伸ばした。
その他
公開:20/01/29 08:41
本郷新 札幌の彫刻家

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
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『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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