紡香師（ほうこうし）漆～紡香

「すいません。俺、春にバイト始めたばっかで。……知らないんすよ。お香の事とか、全然」
何で俺、初対面のこの人に謝ってるんだ。
「もうほんと、単に荷物持ちで……。別に香月さんの教育が悪いんじゃなくて。バイトも俺が押し掛けただけで。だから、すいません」
責められたわけでも、笑われたわけでもないのに。恥ずかしかった。何か言い返さなきゃと思った。
「パフューマーとは、調香師の事です。主に香水を指しますが、様々な香料…香りの素を、選び、扱い、調合するプロです」
優しい声。ああ、この人は中身もイケメンだと思った。
「今香月さんがやってる様に？」
「あれは創香です。既存の香料でなく、原料から抽出、精製する。新しい香りを生み出す作業。創香も調香も独力で行い、洋の東西を問わず、あらゆる香りを自在に紡ぐ、世界に一人の紡香師（ほうこうし）ですよ」
分かり易い解説。爽やかな笑顔。
針のむしろに座ってる気分だった。