紡香師（ほうこうし）陸～パフューマー

しぶしぶ向かった待合室は、窓が切られて明るかった。外に面した窓じゃなく、部屋の中が見える。白衣の香月さんが、複雑怪奇な機械や実験器具に囲まれてる。
試しにあっかんべーしてみたが、反応皆無。中からは見えないらしい。
「……お香作りって、意外と化学っぽい」
「香りは化学物質です」
「すいませんね、物知らずで……」
横から割り込んだ声に、やや喧嘩腰に首を回す。
「こちらこそ、唐突に失礼を」
――たまげた。
黒スーツにグラサン、芸能人ばりの超絶イケメン。
「隣の部屋をお借りした者です。紡香堂さんには、ご不便をお掛けいたしました」
「いえ。大丈夫です、はい……その、いつもお世話になってます」
腰の低いイケメンだ。俺もつい丁寧になる。店名が出るなら、取引先か同業者か。
「ご丁寧に痛み入ります。さすが一流のパフューマーですね、手際が良い」
「パヒューマーって、お香作りの事っすか？」
イケメンが沈黙した。