爪痕

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妻の薫は、自らの命とひきかえに娘を産んだ。
それからは怒濤の日々だった。
僕が一息つくのは娘が眠りについた後、和室の襖を見ながら飲むコーヒーの時間だ。
薫はそそっかしく、襖を開ける時に力を入れすぎてよく爪痕をつけていた。襖を引く方向に流れるような爪痕を。

二人だけの生活が数年過ぎた頃、僕を好いてくれる人が現れた。
彼女は穏やかで、娘にも優しく本当の母親のように接してくれた。僕は彼女との結婚を考えるようになった。

「この襖も何とかしないとな」

襖が新しくなった頃、我が家に初めて彼女が訪れた。
娘に部屋の案内を頼みコーヒーを和室に持っていく。
「……」
襖に爪痕が…そして裏にも流れるような爪痕…
慌てて全ての和室を見て回る。

薫は結婚に反対なんだ!!

最後の襖に辿り着くとそこには、
『幸せになって』と書かれた爪痕…

ああ君はとても悪戯好きだったね。
僕は、薫の最後の悪戯に涙した。
その他
公開:20/01/27 12:51

晶馨

令和1年大晦日からこちらで投稿しております。
令和2年6月から5ヶ月ほどお休みしてましたが、11月に出戻ってきました。
投稿頻度は遅いですが、自分のペースでゆっくり頑張ろうと思ってます。
現在、自宅がWi-Fiじゃないので返信は遅れると思いますが、色々感想など教えていただけると励みになりますので宜しくお願いします^^

(アイキャッチ画像が登録しても登録してもいつの間にか勝手に消えまして、今回は以前のプロフィール文まで消えました。自分のタブレットがおかしいのでしょうか。少々いや、かなり手間取っております(-_-;))

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