紡香師（ほうこうし）拾肆～ミドルノート

ベッドにぽつんと横たわる枕。
「はい嗅いで」
「……ぅおえっ！」
「ＯＫ。正常」
正常じゃない。何の因果で、他人の寝室で枕の臭い嗅がなきゃならない。しかも還暦近いオッサンのだぞ！？
今回は出張依頼。特製の消臭剤を注文され、最終確認に来た。香月さんの商品は、正直高い。オーダーメイドとなると、目ん玉飛び出る様な値段だ。依頼主にとって、それだけ切実な問題なんだが。
「あの、本当に消えるでしょうか、……私の臭い」
「ご心配なく。スプレーを一吹きして、十秒おいて下さい。……イヌ！」
犬じゃねぇ……！
拒否するには今更だ。送ってもらったサンプルの臭気測定。その後試行する事数十回、ことごとく俺が実験台。慣れたくないが、慣れた。
「…ん、……ハッカ系？」
香月さんも依頼主と確認し（ズルい）、目出度く納入完了。
加齢臭で離婚なんてと思ったが、確かにあれを毎日は辛い。臭いの香転で、夫婦仲も好転する事を祈ろう。