紡香師（ほうこうし）玖～組香

特設台に並べた、二十六枚の封筒。手製の匂い袋だ。中にトランプと同じ十三種の香が、二組ずつ。裏返すと、赤か黒で数字が書いてある。

「香月さん、アイディア下さい」
「知るかてめえで考えろ」
相談して五秒で終了。
「薄情者……」
秋の学祭、文学部のダチに頼まれた。俺のバイト先が『紡香堂』と知り、ネタがあると踏んだらしい。
「オレは子守りじゃねぇ」
どっちが子守りだ。膨れたほっぺをつついてやりたいが、ぐっと我慢。
「……組香（くみこう）は？」
「お香のミックス？」
「簡単に言うと、神経衰弱。香を聞いて同じ匂いを当てる。ルールは今風にアレンジすりゃ、まぁ楽しめるだろ」

検討の結果、変則の神経衰弱に決定。匂い袋を嗅いでペアを探し、裏返して正解ならプレゼント。これが予想以上に盛り上がった。

「香月さ～ん！」
「知るかてめぇでさばけ！」
一石二鳥だと、匂い袋に店の広告を投入。現在かつてない大混雑だ。