缶詰家族

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「有ったか?」
「無い」非常袋をのぞき込んでいた明美が答えた。
「ママ、台所は?」
「うーん、無いわね。あ、缶詰が1個あったわ」

2週間のヨーロッパ旅行から帰ってきた親子3人。マンションの42階の部屋に着いた途端、川が氾濫して外に出られなくなった。

「おなかぺこぺこなのに、缶詰1個だけ」明美が泣きそうな声を出す。
「缶詰って、なんの缶詰だ?」
「帝国ホテル監修のビーフカレー」
「は?ご飯も無いのにカレー?非常袋にα米があっただろう」
「だーかーらー、『旅行先で絶対お米が食べたくなる』って、持っていって食べちゃったでしょ、パパが!」
「…、すまん」
「そんなこと言ってても仕方ないでしょ。今はこのカレーで凌ぐわよ。では開けまーす」

「ねえ、肉と人参とマッシュルームが1個ずつよ」「どうする?」「ここはじゃんけんでしょ」

お土産にクロワッサンを買ってきたことをすっかり忘れていたのだった。
その他
公開:20/04/08 15:58

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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