ナスカの夫

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夫が消えたのは水曜だった。
不倫デートの帰り道、私は失踪と家出の違いを考えていた。家に帰ってお風呂に入る。ビールを飲みながらお惣菜。歯を磨き、ベッドで「ナス科の終焉」を読んで眠る。世界が激変しても私の日常に影響はないと思っていた。
「瓶ビールとポテサラ」
週末、行きつけの居酒屋でそう注文すると、店主は「じゃがいもはナス科なんだよ」と嘆いた。
私はスーパーに走った。野菜売場にナスやトマトやじゃがいもがない。ししとうやパプリカ、コロッケも煮っころがしもポテチもない。世界からナス科の全てが消えてしまった。
意気消沈して家に帰り、夫のいない寝室で眠れぬままテレビをぼんやりと見ていた。
ペルーにある古代遺跡ポテサラの丘にはナス科の植物が遺影のように地上絵として刻まれているという。
トマトにナスに夫の笑顔。
那須にある夫の実家に電話をかけてももう通じない。夫たちは絶えた。家出じゃなくて本当によかった。
公開:20/04/08 12:07

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