とうじ

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「おい、新入り。柚子の用意はできたのか?」
「いえ、まだです」
「はやく裏山に行って取ってこい。かぼちゃは炊けてるんだろうな」
「す、すみません、それもまだ」
「なーにやってんだ、まったくノロマだな」
弟子は慌ててかぼちゃを鍋にぶち込むと、柚子を1個採ってきた。

「おい、なんで柚子が1個だけなんだ?それじゃ香りがたたねぇだろう」
「でも1個あれば柚子酒には十分ですよね」
「柚子酒?誰が柚子酒って言った。今日が何の日だかわかっててそんなふざけたことを言ってるのか?」
「いえ、別にふざけているわけでは。え?今日って何の日ですか?」
「冬至だよ冬至。一年で一番昼が短くて、かぼちゃ食って、柚子湯に入る日!」

「あー。えっ?親方が朝から『とうじとうじ』言ってたのは、冬至のことですか?」
「あったりめぇだろう」

杜氏だと思って弟子入りした彼は、即刻やめた。鍋には丸のままのかぼちゃが浮かんでいた。
その他
公開:20/04/08 22:57
スクー 至らない冬至

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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