幸福の箱

6
5

 老人はゆったりと椅子に座り、手にすっぽり収まった木箱をなでた。この小箱は道端で占い師から貰ったものだった。
「一番幸福な時に開けなさい。それ以上の幸福を与えましょう」
 老人はそれから60年間、いつ幸福の絶頂に達するかと生き続けて今日になってしまった。
 妻は既に逝ってしまったし、子供たちとも絶縁状態。貯蓄はもうそろそろ尽きそうで、孤独死まっしぐら。
 そして本日、老人はふと思い至った。
「幸せとは失ってから気づく。今でも私が失って悲しくなるものはたくさんある。孫が死んだら悲しいし、体が不自由になったら自分が不幸だと嘆くだろう。ならば、それらを失っていない今が最も幸福なのではないか?」
 老人は意を決して蓋を開けた。すると、強烈な眠気が老人を襲った。
「幸せに死ぬこと以上に、幸せなことがありますか?」
 占い師の声に老人は静かに笑う。
「幸せな人生だったよ。お前の余計な一言を除いて」
ファンタジー
公開:20/04/06 22:02

ゆぅる( 東京 )

お立ち寄りありがとうございます。ショートショート初心者です。
拙いなりに文章の面白さを追求していきたいと思って日々研究しています。
よろしくお願いします!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容