蝉取り

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蝉の声が聞こえて来ると昔を思い出す。網を持ち裏山に行く、狙いは大きな透明の羽の熊蝉だ、王様の様に思えた。
鳴声は「シャシャシャ…」と聞こえ、間には「ジー…」という長い声も入る。
多いのはジージーと煩く鳴く茶色の油蝉だ。尖った口をストローのように差し、樹液を吸っている。鳴くのを止めたら警戒している証拠で、私も息を凝らしてじーと待つ。鳴き始めたら網を近づけるチャンスだが焦るのは禁物、失敗すると仕返しにオシッコが降ってくる。これは樹液の消化後の物で、殆ど水で無害と言う。でもかけられるのは不愉快だ、とは言え蝉だって命は欲しいし必死である。何年も地中にいて、今やっと青空を謳歌しているのに。

そんな時、「可愛そうだから獲らずに逃しておやり」と周りの樹木から聞こえた。「私達だって蝉の注射針のような口で栄養を吸われて痛いけど、許しているよ」「だって彼らは私達の根っこの所で7年もじっと我慢してたんだ」と。
ファンタジー
公開:20/04/06 18:21
更新:20/04/07 20:38

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