離れても家族

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一人暮らしをするため、昨日実家を出た。
「今生の別れじゃないんだからそんな顔しないの。ほらこれ、どうしても泣きたくなったらなめなさい」
ママは私に飴玉をひとつくれた。
静かで誰もいないアパート。調理器具を出そうと段ボールを開けたら、中にはママの書いた調理メモ。ママの字を見て動揺しながらさらに奥を見ると、中には私の大好きな、なめ茸の瓶が入っていた。
家の中のどこにいても、目が合うと笑ってくれたママ。いってらっしゃいもいってきますももう言えない。涙をこらえる。寂しい。胸が痛くてたまらない。
そうだ、飴玉。私は飴玉を口に入れた。ゆらゆらと世界が揺れ、ふっと意識が飛んだ。
見慣れた実家のリビングでママが私を見ている。ママの顔はハッとするほど穏やかだった。
「馬鹿ね、もう使ったの。大丈夫。離れても家族でしょ」
ママは私を抱きしめた。
静かで誰もいないアパート。舌先に残る、微かな優しい甘さが心地いい。
その他
公開:20/04/07 16:08
更新:20/04/08 19:30
〇〇家族

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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