おかえりなさい
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夕食の時間だと呼びに来た母親が伺う顔をしていて理由を聞くと庭で誰かの声がしたが誰もいないと。気のせいではないかと言いかけた時自分にも何か聞こえた。二人で部屋から見下ろしても庭には誰もいなくてでも確かにと言い合っているとおーいとはっきり呼び掛けられた。その途端母親はあなた!と窓を開く。その声は確かに父親の声だと思う。母親はもう一度あなた、と呼ぶ。その時ざぁっと庭に風が吹き降ろしてそれが窓越しに自分たちにも感じられてまた顔を見合わせる。父親の吸う煙草の匂いがしたからだ。今日の夕食は父親の好きな酒に変えよう。さあ帰ってくるわよと母親に促され階下に降りた。玄関を開け放つと渦を巻く風と共に父親が帰ってくる。おかえりなさい、おかえりなさい、久しぶりだ、帰ったぞと右手に大きなヤツデの葉の団扇を握った父親が笑いかけてくる。おかえりなさい。大きくて優しくて赤い顔に長い鼻の不思議な力を持つ、僕らの、父さん
その他
公開:20/04/07 00:37
プチコン花の15編のひとつに
選んで頂きました。
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