煙草をベランダで

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澱んだ雲。
いつ降り出してもおかしくない空に向かって紫煙を吐く。
不自然で歪な形。風は…そんなに強くない。

(あぁ…来たか…)

彼女はいつも煙草を吸い始めると来るのだ。
今日も何も言わず黙ってただただ俺の姿を眺める。

(そんなに俺が心配か?)

そう思うと、クスッと笑ってしまう。
彼女は驚いた顔をして、その後赤らめた顔をふいっと背けてしまった。

「あ。違う違う。ごめんな?お前の事を笑ったんじゃないんだ。」

彼女はここに来るようになって初めて声を掛けてきた。か細い声で…見えてるの?と。

「どうだろうな。ただ、俺はお前にもう一度会ったら言おうと思ってた事があるんだ。お前を愛してるよ。これから先も…ずっと。」

ついぞ渡せなかったそれを、椅子の上に置き俺はそのままベランダを後にした。
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公開:20/04/05 08:26

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