空席家族

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食卓の椅子は、いつも一つ空いている。
四人掛けの左前、次男の席だ。『だった』と言う方が早いかも知れない。中学に上がって数カ月、突然消えてしまった。事件や事故でないのは確かだ。だが、思い当たる節がなかった。原因が掴めないまま、以来、一度も姿を見ていない。

空いている様に見えるが、実際に空いているかは判らない。
テレビの音が響く、会話のない夕食。左前の椅子が時々ずれている。膝を抱えた子供が、すっぽりはまる程の幅。
うっかり目をやれば、数日は動かない。姿も、音も、匂いも、気配すらない、文字通りの『透明人間』。突然消えた。見えなくなった。原因が掴めない――掴めない程、私達はあの子を見ていなかった。

おかずの皿を置いたのは長男だった。
会話を始めたのは夫だった。
勇気を振り絞って、椅子に笑いかけた。
いつかの満席を待ちながら、空席と食卓を囲む。
今日はいつもよりずれが狭い。きちんと腰掛けた幅だ。
その他
公開:20/04/05 23:40
更新:20/04/06 17:40
〇〇家族 隕石家族

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
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