14
8

「ええ、家族で温泉に」「パパ、荷物持つよ」「賑やかですいません」「はぁい、ではまた」

バタン

隣人との会話を済ませて家に入った途端、妻と息子は口を閉ざした。
この家族旅行は最後の賭け。結果は惨敗だった。
我が家は仮面家族だ。
一ヶ月程前のこと。突然、妻と息子の顔が、ぼやけて見えなくなった。思い当たる節だらけだった。仕事に明け暮れ、家族の会話は失われていた。僕は妻の好きなドラマも、息子の友人の名前も知らなかった。
「ごめん。もう限界だ。僕にはお前たちの顔が見えないんだ」
いきなり妻が僕の顎に指を掛けて、仮面を剥ぐようにベリベリと顔から何かを取り去った。
視界が鮮明になり、微笑む妻の顔がハッキリと見えた。

そうか。
仮面をつけていたのは僕だったのか。

呆然とする僕の前で、今度は妻と息子が自分の顎に指をかけた。

ベリベリ…

中からモザイクの顔が現れた。
まだ仮面家族は継続中らしい…。
ファンタジー
公開:20/04/04 07:57

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容