春の雪

ここは鬼ヶ島。恐るべき鬼の根城。誰もが鬼という存在に恐怖し、鬼ヶ島は禁忌の地とされていた。
そんな島に今日、二人の老人が鬼の酒宴へと連れてこられた。
「では、早速やってもらおうか」
厳つい鬼がそう言うと片方の老人は腰の巾着に手を入れ中の灰を空へと放り投げた。
「枯れ木に花を咲かせましょう！」
老人の言葉を皮切りに鬼ヶ島の木々は目を覚ましたかのように次々と芽吹いていく。
それを合図にもう片方の老人は咲いたばかりの桜を背に踊り始めた。手に持った扇子で雪鬼と花咲か爺さんに合図を送る。
すると雪と桜が見事に舞い、幻想的な雰囲気を醸し出した。
鬼は瘤取り爺さんの踊りにいたく感動し、気付けば皆が酒を片手に踊りだしていた。
鬼は恐ろしい存在だと言われているがそれは一部の鬼の話だ。だってここにいる鬼達は皆、無邪鬼に笑っている。
人も鬼も区別なく酒を交わしている。
ここは鬼ヶ島。実は住めば都の楽園である。