3
6

 今日も彼はいじめられているらしい。拳を握りしめ、噛み締められた歯の間からは、ヒュウヒュと息が漏れている。今にも表面張力を振り切って、眼球から涙が溢れそうだ。
 そんなに理不尽を我慢しなくてもいいのに。
 
 教室にいる仲間の机たちのほとんどが落書きされている。子供たちは、机でさえも遊び道具にする。平気で油性マジックで落書きし、下手な絵を描き、カッターで卑猥な言葉を刻み付ける。
 けど、この子は違った。理不尽を受けているから、理不尽を物にさえ、向けはしないのだ。
 
 が、ついに耐えられなくなったようだ。
 私をえいやっと掴み上げるといじめっ子たちに振り回した。私は目が回ったが、すぐに浮遊感が襲ってきた。
 私は窓ガラスを破って、宙を飛んでいた。
 校庭でひっくり返っている私を、教室の中から、仲間の机たちが気の毒そうに見つめてきても、私はむしろ、清々しかった。
 我慢しなくていいのだ。
青春
公開:20/04/04 19:28

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容