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 全身にのしかかる恐ろしい圧力に耐え、苦い汁だけを吸いながらずっと考えていた。なぜ、自分がここにいるのかを。
 やがて、自分がしがみついている固いところが、定期的に激しく振動する時期があることを感じ、それが自分の魂を鼓舞する律動を持っていると気付き始めた頃、この律動こそが自分をこの世に生み出した源なのではないかと考えるようになった。
 冷たさと湿気とを経て熱さがやってくる度に、身体ごと世界が震えた。
 唐突に、これが音だと思った。歌だと思った。叫びだと思った。そして、この次には自分が、この叫びそのものになるのだと思った。
 ある夜。激しい憤りにも似た力の漲るのを感じ、死に物狂いで固いものを辿った。不意に重さが消滅し、これまでに感じたことのない優しい何かが、傷ついた身体を撫でた。
 世界が変化したのだから、自分も変わらねばならない、と思った。
 羽化した蝉は両親を知らぬまま「叫び」となった。
公開:20/04/03 16:00
更新:20/04/03 16:35
そして雌は叫びを 胎内に宿そうとする

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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