捜索家族

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アマビエを捜索する兄から8人の弟に召集がかかった。
法事や結婚式にも姿を見せない兄弟がアマビエならばと集まってくる。場所は諏訪湖周辺。上諏訪か下諏訪かは聞かなかった。私たち兄弟は野暮な説明を嫌う。きっと会える。そう信じることが重要だ。
諏訪入りして3日。私は連泊しているホテルから朝の散歩に出た。地元の人が通う喫茶店に地元の人のような顔をして入り、地元の新聞を広げてコーヒーを飲む。旅は埋没だ。観光地は巡らず、その土地に暮らしているような時を過ごす。それが捜索家族の掟。
ひとり、またひとりと、トレンチコートの兄弟が店にやってくる。皆が別の席に座り、声もかけずにコーヒーを飲む。無言で長兄から回し読む新聞。
不穏な空気に怯える店主。その顔はアマビエ。一斉に立つ9人の男。たまらず店主は逃げた。皆が店主を追いかける。駅前通りを追いかける。ここは上諏訪。店主の言い訳など聞きたくはない。野暮は嫌いなんだ。
公開:20/04/03 11:16

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