君の頭を蹴ったことを覚えてる

4
7

有明さんの頭をサッカーゴールに向かって蹴った。
「痛くないの?」
「ぜんぜん」
どちらかというと僕の心の方が痛かった。
有明さんは柔らかく笑う。
「人の頭だけは蹴るなって父さんによく言われたのになぁ」
「別にいいじゃない」
隣のクラスの有明さんは、ついこの間交通事故で亡くなった。

「アタシ、おばけだもん」

有明さんは僕の前に化けて現れたのだ。

高校の部活の帰りにこの公園で有明さんを見かけて一目惚れした。僕はサッカーボールを蹴りに、彼女は犬の散歩に来ていた。僕の家は少し遠いが彼女はこの辺に住んでいるらしい。

「有明さんの言った通りだ」
膝元に置いた頭に話しかける。頭から返事はない。
膝元に置かれているのは、サッカーボールだ。
ついこの間は、ついこの間でなくなってしまったから。

「脚、治ったよ」

あの時化けて出た好きな人の頭は、柔らかかった。
濡れたサッカーボールを袖で拭いた。
恋愛
公開:20/04/02 22:41

菫永 園(すみなが えん)

書いたり喋ったりする金髪ギャルのひとです。時空モノガタリ出身。

■Twitter(@teloivxijor)
https://twitter.com/teloivxijor?s=09

■菫永 園の踊らないラジオ
https://radiotalk.jp/program/49880

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容