患者の立場

　総合病院の新設に伴い、院長による医師達の決起集会が開かれた。

「私は、患者の立場に立った診療をモットーにしたいと考えております。全国各地からお集まり頂いた、視力の低い眼科医や虫歯のある歯科医師、アトピー持ちの皮膚科医。素晴らしい。他人の気持ちを理解するには自分も同じ経験するのが一番なんです。そうは思いませんか？」

　院長の熱い演説に喝采の拍手が沸き起こる。

「では、何か質問のある方はおられますか？」

院長の問い掛けに、一人の若手医師が気怠そうに手を上げる。

「ちわっす、内科医の安藤っす。今回俺っちは、患者の立場に立った禁煙外来の専門医として呼ばれたんすけど、ぶっちゃけ俺っち禁煙者なんすけど大丈夫すか？」

　若手医師の質問に院長は、首を傾げながら答えた。

「あなたは充分、禁煙外来の患者さんの立場に立てていますよ。ほら、周りを見渡して下さい。皆さんに煙たがられてます」