炒めあう家族

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私の耳がキクラゲであることを彼はまだ知らない。
私はいつもニット帽を深く被っている。真実を知れば彼はどう思うだろう。私たちは町中華が好きで、食べ歩くのが定番のデート。決まって頼むのはキクラゲ炒め。卵との相性が抜群で「俺がキクラゲなら七海は卵だよな」と彼は言う。
私はその言葉が辛かった。本当にキクラゲなのは私の耳で、痛めているのは私の胸だから。
今日もおいしいキクラゲ炒めを食べた。ほろ酔いの彼がウチに来いよと私の手を握る。私の胸は中華鍋より熱い。ふたりきりになって下から順番に脱いだけれど、私はニット帽を外せない。自分を晒すのが怖い。私の秘密を知って、私を女じゃなく、キノコのように見つめる彼が怖い。
優しく私のニット帽を脱がす彼。
「えっ、ニラなの?」
「そっち?」
私の髪はニラだ。頭には自慢のニラ畑がある。
「俺は卵になる。殻割って、炒めあう家族になろうよ」
彼はまだ私の耳に気づいていない。
公開:20/04/01 18:53
更新:20/05/06 09:17

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