お帰りスイッチ

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「ただいま」
会社から帰った俺が自宅のドアを開けても、誰も迎えてはくれない。喜んで玄関まで出てきてくれるのは柴犬のタロだけだ。

一人暮らし?
とんでもない。妻も娘もいるさ。
でももう何年も前からこうなんだ。
俺がリビングに入ってきても、妻はテレビ、娘はスマホから目を離さない。もちろん無言。どうやら『お帰りスイッチ』を切っているらしい。
俺は冷めた夕食をレンジで温めて食べる。

…いや待てよ。ならスイッチを入れればいいじゃないか。
俺はその晩、すっかり寝入った妻と娘のうなじにある『お帰りスイッチ』をこっそりONにした。幸い二人とも目を覚さなかった。

翌日、俺は定時を過ぎるや会社を飛び出した。奮発して駅前でケーキなんか買ってみたりして。ああ、久しぶりに家族の団欒が楽しめるぞ。
自宅に着いた俺は、期待に打ち震えてドアを開けた。
玄関には並んでお座りをして、メシと散歩をねだる二人と一匹がいた。
その他
公開:20/04/01 14:05
更新:20/04/01 16:36
SWITCHインタビュー 達人達 スイッチ ほんとは「ありがとう」で スイッチONになるのにね #50

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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