おまじない人魚

「おばさん」。プール授業の点呼の時に、体育教師宮橋(59)はミコト(17)を名前ですら呼ばなかった。クリスチャンの地理の教師もまた、彼女を明らかにブスと見ていた。
「あの先生、嫌や！」ミコトの所属する華道部の一年生は、宮橋がいかにセクハラかに怒っていた。
小学生の時に買ったおまじない大百科はまだ家にあった。水の精に願いを叶えてもらえる魔術のページを開き、ミコトは面白半分に試した。水晶をコップの水の中に落とし、願い事を唱えた。
プールの時間。宮橋はいつものようにプールサイドを歩いてやってきた。
足元がぬるっとした、その瞬間叫び声をあげた。
宮橋はザブーーンと、プールへ落ちてしまった。何度地上へ戻ろうとしてもプールの水が手足を引っ張る。
「だめだ…」
大量の水を飲み込み、入院した宮橋は早めに定年退職した。「プールが怖くて入れなくなった」。それに誰も助けてくれなかったとしんみりした。