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「礼子さん…僕、もうすぐ結婚するんだ」
今日も最後のお客様だった彼が呟いた。
驚きを心に押し込め、ゆっくり振り返る。
いつもまっすぐ目を見て話す彼が、今日は私を見ない。
「本当?…おめでとう」
「…ありがとう」
同僚だった頃から、誰よりも有能で誠実な強い芯を持った彼をずっと尊敬していた。
だから何となく判る。
彼がこの店に来るのは、もう今日が最後。
見送るために外に出ると、息を呑むほどの月の光が辺りを蒼く照らしていた。
「…今夜は月が綺麗だね」
言ってから彼はしまった、という顔をする。ふふ、今の彼にはちょっと危うい台詞。くすりと笑うと、彼もほっとしたように苦笑する。
「…じゃあね。ご馳走様」
「うん…ありがとう」
足跡も影を残しそうな月灯りの中、歩き出した彼が振り返る。離れた彼の口元が微かに動いた。この光でも言葉までは読み取れない。
―でもそれでいい。
私は微笑み、そっと彼に手を振った。
今日も最後のお客様だった彼が呟いた。
驚きを心に押し込め、ゆっくり振り返る。
いつもまっすぐ目を見て話す彼が、今日は私を見ない。
「本当?…おめでとう」
「…ありがとう」
同僚だった頃から、誰よりも有能で誠実な強い芯を持った彼をずっと尊敬していた。
だから何となく判る。
彼がこの店に来るのは、もう今日が最後。
見送るために外に出ると、息を呑むほどの月の光が辺りを蒼く照らしていた。
「…今夜は月が綺麗だね」
言ってから彼はしまった、という顔をする。ふふ、今の彼にはちょっと危うい台詞。くすりと笑うと、彼もほっとしたように苦笑する。
「…じゃあね。ご馳走様」
「うん…ありがとう」
足跡も影を残しそうな月灯りの中、歩き出した彼が振り返る。離れた彼の口元が微かに動いた。この光でも言葉までは読み取れない。
―でもそれでいい。
私は微笑み、そっと彼に手を振った。
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公開:20/03/31 12:08
更新:20/03/31 13:56
更新:20/03/31 13:56
勝手に花鳥風月シリーズ開催
#4 月
#1 花とセットになっているので
併せてお読み頂けると
嬉しいです
月が綺麗ですね
= I love you の意訳
夏目漱石によるものという俗説
2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnote・TALES・公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません
【活動歴】
・第2回 日本おいしい小説大賞 最終候補(小学館)
・第31回やまなし文学賞 佳作『雨を知るもの』
・創作大賞2025 入選 『栗と牡丹』
・SSアンソロジー『ベリショーズ』寄稿
・ホラーアンソロジー『ウタ・カタ』寄稿
【刊行】
・第31回やまなし文学賞受賞作品集(山梨日日新聞社)
・栗は月色、こがね色 和菓子処長月堂(朝日文庫)
【note】
https://note.com/akishiba_note
【Twitter】
https://twitter.com/CNecozo
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