花鳥風月 其の肆〜月

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「礼子さん…僕、もうすぐ結婚するんだ」
今日も最後のお客様だった彼が呟いた。
驚きを心に押し込め、ゆっくり振り返る。
いつもまっすぐ目を見て話す彼が、今日は私を見ない。
「本当?…おめでとう」
「…ありがとう」
同僚だった頃から、誰よりも有能で誠実な強い芯を持った彼をずっと尊敬していた。
だから何となく判る。
彼がこの店に来るのは、もう今日が最後。

見送るために外に出ると、息を呑むほどの月の光が辺りを蒼く照らしていた。
「…今夜は月が綺麗だね」
言ってから彼はしまった、という顔をする。ふふ、今の彼にはちょっと危うい台詞。くすりと笑うと、彼もほっとしたように苦笑する。
「…じゃあね。ご馳走様」
「うん…ありがとう」
足跡も影を残しそうな月灯りの中、歩き出した彼が振り返る。離れた彼の口元が微かに動いた。この光でも言葉までは読み取れない。
―でもそれでいい。
私は微笑み、そっと彼に手を振った。
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公開:20/03/31 12:08
更新:20/03/31 13:56
勝手に花鳥風月シリーズ開催 #4 月 #1 花とセットになっているので 併せてお読み頂けると 嬉しいです 月が綺麗ですね = I love you の意訳 夏目漱石によるものという俗説

秋田柴子

2019年11月より、SSGの庭師となりました。
現在SSから長編まで幅広く書いております。

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞1回 入選2回
・SSG 空想競技コンテスト 入賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・SSマガジン『ベリショーズ vol.5,6,7,light』掲載(Kindle無料配信中)
https://www.amazon.co.jp/dp/B096821HSW

【近況】
 いろいろ書いてます(笑)

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