櫻貝(二)

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濱を散策するには、風の寒い午後でした。
公園と銘打ちましても、子供の喜ぶ遊具の有るでなし、人氣の絕えた松原に、文字の削れた立看板が、所在無げに佇んでいるきり。
「どうにか保ちましたね」
用心に持った蛇の目傘を風避けに開き、空いた手で、夫は私の袖を引きました。
寄せては返す潮騷と、雪駄と草履が砂を噛む音を聞きながら、波打ち際まで相合傘で步きました。袷羽織を拔けて、微かに汗交じりの磯の香が屆く度、私が周りへ眼を遣るものですから、夫は頻りに肩を震わせておりました。

「櫻は何處に咲くのでしょう」
心持ち早口の私は、『櫻』の正體を、凡そ察しておりました。
果たして夫は膝を屈め、砂に埋もれたそれを抓むと、波に洗って陽に翳します。花辨の色形をした、櫻貝が一つ。
「海の下です」
夫が空に放した貝は――ひらゝゝと舞い落ち――沈まず海面に浮かんだのです。
「見て」
夫の示す先を覗き込み、私は息を呑みました。
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公開:20/03/30 23:33

創樹( 富山 )

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