宝石泥棒

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「ああ……」
私は宝石店から出ると、まっすぐ路地裏へ向かいカバンの中にある宝石を手に取る。
買ったものではない。
「今戻せば、許してくれるだろうか」
だが、それをするだけの勇気が私にはなかった。
どうしたものかと辺りをうろついていると、警官に呼び止められた。
助かった、と私は思った。
すべてを白状するなら、今しかない。
「あの……」
「先ほど、この近くで宝石強盗があったのですが、なにか見ていませんか。なかなかの強盗で、証拠も一切残していないのですよ。あれだけ鮮やかな手口は今までに……」
警官の言葉は、いつも同じようなものだ。
「……いえ、見ていません」
「そうですか。なにか思い出したら、ご連絡ください」
そういって、警官は去っていった。
これで、何度目だろうか。
戻そうと思うといつも警官が声をかけてきて、さっきのようなことをいう。
ああいわれてしまうと、なかなか白状することができないのだ。
その他
公開:20/03/29 17:48

ふじのん

歓びは朝とともにやってくる。

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