帰省キップ

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散歩中、――と言っても、ずいぶん久しぶりだけど。校門の大ケヤキは、前と変わらない顔で、背の高い枝を振った。
幹の模様を目で辿る。私のキップは何年も前だし、自分で取れなかった。ウロコ模様は知らない顔に見えた。

卒業記念の皮キップ。ウロコ状にはがれる大ケヤキの樹皮を、一人一枚。自分の好きな場所を。仲の良い友達と。ケヤキがくれる、世界に一つの卒業証書。
それぞれ取った樹皮は、擦るとケヤキの声がする。それぞれの声に背中を押されて巣立って行く。
私の分は、先生が病室に届けてくれた。移植手術の一週間前だった。

ポケットから出して撫でる。
『だいじょうぶ』すっかり小さく掠れた声。
擦るうちに端が欠け、色も変わって、それでも繰り返してくれた。死ぬ思いで移植して、退院した後再発して、もう無理だと泣いて当たった時も。

手を伸ばして幹に触る。
『おかえり』
模様の一つ一つ、合唱みたいに。
「……ただいま」
ファンタジー
公開:20/03/29 12:00
散歩道で見た シーズン2-⑫終話 ケヤキの樹皮。帰省の樹声。 いつかまた、次の散歩で。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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