20
12
散歩中、――と言っても、ずいぶん久しぶりだけど。校門の大ケヤキは、前と変わらない顔で、背の高い枝を振った。
幹の模様を目で辿る。私のキップは何年も前だし、自分で取れなかった。ウロコ模様は知らない顔に見えた。
卒業記念の皮キップ。ウロコ状にはがれる大ケヤキの樹皮を、一人一枚。自分の好きな場所を。仲の良い友達と。ケヤキがくれる、世界に一つの卒業証書。
それぞれ取った樹皮は、擦るとケヤキの声がする。それぞれの声に背中を押されて巣立って行く。
私の分は、先生が病室に届けてくれた。移植手術の一週間前だった。
ポケットから出して撫でる。
『だいじょうぶ』すっかり小さく掠れた声。
擦るうちに端が欠け、色も変わって、それでも繰り返してくれた。死ぬ思いで移植して、退院した後再発して、もう無理だと泣いて当たった時も。
手を伸ばして幹に触る。
『おかえり』
模様の一つ一つ、合唱みたいに。
「……ただいま」
幹の模様を目で辿る。私のキップは何年も前だし、自分で取れなかった。ウロコ模様は知らない顔に見えた。
卒業記念の皮キップ。ウロコ状にはがれる大ケヤキの樹皮を、一人一枚。自分の好きな場所を。仲の良い友達と。ケヤキがくれる、世界に一つの卒業証書。
それぞれ取った樹皮は、擦るとケヤキの声がする。それぞれの声に背中を押されて巣立って行く。
私の分は、先生が病室に届けてくれた。移植手術の一週間前だった。
ポケットから出して撫でる。
『だいじょうぶ』すっかり小さく掠れた声。
擦るうちに端が欠け、色も変わって、それでも繰り返してくれた。死ぬ思いで移植して、退院した後再発して、もう無理だと泣いて当たった時も。
手を伸ばして幹に触る。
『おかえり』
模様の一つ一つ、合唱みたいに。
「……ただいま」
ファンタジー
公開:20/03/29 12:00
散歩道で見た
シーズン2-⑫終話
ケヤキの樹皮。帰省の樹声。
いつかまた、次の散歩で。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
ログインするとコメントを投稿できます