花鳥風月 其の壱〜花

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「あれ?この木、赤い花と白い花が混ざってる」
隣を歩く同僚が足を止めた。
「ああ花桃ね。色素を作る遺伝子の突然変異で、元々赤い花が白くなるの。源平咲きって言うみたい」
「…さすが礼子さん、博識」
彼女は小さく微笑んだ。
知性豊かで優しく謙虚な彼女に、僕は仄かな憧れを抱いていた。
でも冴えない風貌の僕では、とても彼女と釣り合わない。恋心にもなれない憧れだけが、僕の中で静かに眠っていた。

時が経ち、僕らは互いに別の道を歩み始めた。時折は彼女が開いた店に行っていたが、僕が見合いで結婚したのを境に会うのをやめた。それは伴侶への僕なりの礼儀であり、矜恃だった。

「ぱぱ、この花赤と白が混ざってる!」
三歳の娘が声を上げる。
「花桃っていうんだよ。色を作る働きが…」
言いかけて、僕はよいしょと娘を抱き上げる。
「…何でだろうね。お花もお化粧するのかな?」
遠い空の下で、彼女が優しく微笑んだ気がした。
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公開:20/03/27 13:15
更新:20/03/28 15:41
勝手に花鳥風月シリーズ開催 #1 花 花桃 花言葉は 気立ての良さ チャーミング

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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